Facebookで評判になっていたので、時代遅れになってはイカンとこっそりAmazonで購入。小ぶりの本だったが読み終わるのに結構時間がかかった。と言うのも著者が理系バリバリの人で、統計力学の概念や数式がそこら中で使われており、そう言うのが出てくるたびにWikipediaなんかの解説を読まないとまるきり腑に落ちない内容であったからだ。
著者の矢野氏は早稲田から日立製作所に入社。1993年には「単一電子メモリの室温動作」に世界で始めて成功したのだそうだ。何のことかよく判らないが、多分すごいことなのだろう。ここ10年は「ウエアラブル技術とビッグデータ収集・活用で世界を牽引」してきた人だという(カッコ内は奥付から引用)。この本は後者の中身を素人に判りやすく解説する目的で書かれたものだと思うが、私ごときには判らない部分はやはり判らない。
矢野氏のチームはまず、腕時計状の加速度センサを使って被験者の動きを記録した。そうして一分間の腕の動きの回数とその出現頻度比率の関係を見たところ、比率を対数軸で表せばきれいに右肩下りの直線に乗ることを見出した。これは分子のブラウン運動を観測した時の結果と同じなんだそうで、統計力学ではボルツマン分布として知られるものであるそうな。
この辺りで私なんかは「は〜そうですか」と棒読み感想を述べるしかないが、著者によれば、これは人が自分の意志で自由に行動を決めていると考えているが、じつはマクロ的には我々の行動は普遍的な法則によって導かれている事を示しているという。ミクロ的意志や思いを知らずとも、マクロ的な人間行動の分析は可能であるとも。
私らの商売をしていると、ああ、新手の行動主義ですかと思ってしまうのがイカンところで、その後の著者の主張にもついつい疑いの眼をむけてしまうが、出だしの部分以後は至極判りやすい、個々の人々の動きから見た職場の効率分析の話になる。センサを首からぶら下げる名札にし、動きと位置、人々の相互関係を記録し、生産性との関連を見る。あるコールセンターの事例では、休み時間の賑やかさが案件処理効率と明らかな相関があった。
相関を見る時、事前に仮説を立てないのも重要らしく、大量のデータから相関を発見するのは日立が作ったデータ処理システム自身だそうである。著者たちはあるホームセンターでの分析で、販売従業員の立ち位置と売上の関連を見出したが、その最適位置というのは、およそ常識的に予測することが出来ないものであったという。
こうした客観的なデータに加え、質問紙法による主観的内容を組み合わせれば「幸せ」というものも測定できるのではないか、というのも著者の主張で、それによれば効率的に運営されている職場では従業員の幸せ自覚度は高く、その企業の生産性や収益性も高いのだそうである。労働者が幸せなら企業も儲かるということである。
日頃、青息吐息の経営状態の会社から、無理難題を押し付けられて不平不満に満ち満ちた生活を送っている人々(日○の社員も結構いるような…)の愚痴を散々聞かされている立場からは、それが本当ならいいねと心から思う。労働と幸福が同じことを意味する社会が実現するよう、著者のチームの今後のさらなる活躍を期待するものだ。