久しぶりに東京まで観劇に出かける。場所は渋谷のパルコ劇場。本日の出し物は「あまちゃん」の脚本家として知られる(と言って私はそのドラマ見たことないんだが)宮藤官九郎作の「万獣こわい」。なんでも“ねずみの三銃士”と自称する生瀬勝久・池田成志・古田新太らのユニットによる企画らしい。2004年に「鈍獣」、2009年には「印獣」という芝居をリリースしているとか。
題名だけ聞くと江戸川乱歩原作かと思ってしまうので、今回は落語ネタを加えてひねってみたのかなと推測したのだが、当然のことながら彼らの今までの芝居を見ていないのでなんとも言い難い。何であれ、この手のアングラとミーハー系商業演劇の境界を狙った芝居群には多少の関心がある方なので、友人から誘われてホイホイと付いていった訳。
落語の「饅頭こわい」の高座シーンから始まる芝居のテンポは軽妙で、複数の舞台を同時に使って進行させるドラマ展開も判りやすい。中身は2012年に発覚した尼崎監禁連続殺人事件をモデルにしたと思われる、同居者たちの人格支配による殺人の連鎖をテーマにした凄惨とも言えるものなのだが、極限状況の圧力が高まった場面から爆笑を紡ぎだす手腕の見事さには些かならず感心してしまった。
それなのに、正直言って観劇後の気分はあまりいいとはいえない。劇的カタルシスがないのである。疑心暗鬼状況をうまく作り出し、それを利用して人を支配して犯罪行為に自ら染まらせることに長けた人がいるのですねぇ、普通の人はあれには負けてしまうので、いいように振り回されながら、せめて笑っちゃうしかないですねぇ、で終わっていて、肝心の悪意に満ちた「一番怖い人」を笑いの対象にしていないのである。
せめて落語のオチにある「渋茶が一番怖い」に当たる、悪意の腰を砕けさせるようなエピローグがあったなら、この芝居は犯罪爆笑喜劇として演劇界の歴史に残るものになったのではと思わなくもない。
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