昨年の7月にトマス・ピンチョンの「LAヴァイス」と言うハードボイルド探偵小説仕立ての奇天烈作品の感想文をアップしたが、それを読むそもそものきっかけとなったのが彼の長編代表作である「重力の虹」という、知る人ぞ知る超奇天烈小説である。実は「LAヴァイス」と同時に買っていたのだが、なかなか読む気にならず、半年間放ったまま背表紙を眺めていた。
正月過ぎにやっと手に取る気になり、実に半月以上かけてやっと読み終えたのだが、正直言って「なんじゃこりゃ」である。とにかく歴史的薀蓄から微分方程式、怪しげな有機化学の断片に、パブロフ派精神医学の新解釈などのごちゃごちゃが、決まったギャグと滑ったジョーク、そしてそれらがノーマル系から変態領域のポルノ記述とともにテンコ盛りされている。
一応ストーリーらしきものはあり、主人公もいる。二次大戦末期、ロンドンにV2ロケット爆撃調査のために派遣されたアメリカ軍将校、タイローン・スロースロップ中尉がその人。彼は職務よりはもっぱらナンパに熱心で、次々にロンドンのあちこちで情事を重ねるのだが、何故か数日以内にその情事現場にはV2ロケットが落ちてくるのである。中尉の勃起痕跡をロケットが追うのか、その勃起がロケット襲来予知なのか。彼の特殊能力を何故か知るある組織によって彼は監視されている。
やがて彼は監視の目を逃れ、休暇先のリビエラから逃亡し、スイスを経て敗戦直後のドイツへ潜入する。こう書くとかなりしっかりしたプロットがあるじゃないかと思われるかもしれないが、この小説では記述の視点がコロコロと変わり、しかもそれが段落ごとに明示されぬまま別の人間の話になっていたり、おまけに時間軸まで違っていたりするので、話の筋を追うのは容易ではない。500ページほどある二段組二巻のほとんどがその調子。
他にも副主人公といえる登場人物は数多く、中尉を監視する組織の中の対立とか、独自にロケットの秘密を追う「黒の軍団」(この連中について説明しょうとすれば更に2段落ほどいるので割愛)とか、ソ連軍や日本軍の情報将校とか、物語とは全く無関係に登場するカミカゼ特攻隊員のおふざけ漫才などが目白押しなのだが、小説を読み終わって判るのが、それらの人々は出てきただけだったということ。様々な謎のようなものがほのめかされるのだが、結局何も解決されることなく何だかわからぬまま消えていくのである。
ネタバレと言う言葉はこの小説にとっては無関係であろうから、あえて書いてしまうと、そのうちスロースロップ中尉もどこかに消えてしまい、最後は時間軸的にもいつだかわからぬロケットの上昇と下降、それもえらく唐突な目標地点に向かう話になるのだが、その理由は全くわからぬまま小説は終わる。もしかしたら丹念に読んでいけば理解できるのかもしれないが、少なくとも私の理解力を大きく超えた小説であったことだけは間違いない。
この後取るべき態度は①懲りたのでもうT・ピンチョンは読まない。②やけくそなので買ってしまった分は全部読み、ピンチョンの専門家のごとく振る舞う。③なかったコトにする。などが考えられるが、多分私は②を選んでしまうんだろうな。
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