2013年6月24日月曜日

蜂工場

本棚の奥の方に横積みになっていたイアン・バンクスのデビュー作、「蜂工場」を発見。20年以上昔に買っていたはずだが読んだ覚えがない。

イアン・バンクスは1980年代中頃にこの作品でニューホラーの旗手としてデビューした作家。それだけにとどまらず、ミステリーやSF作家としても知られる。と言っても私がそう詳しいわけではなく、これらは数日前にネットで調べたもの。ついでに判ったことは、彼がつい先日(2013年6月9日)胆嚢癌で死んでいたこと。諸行無常であることよ。

たしかこれを買ったのは彼のミステリ、「共鳴」が結構面白かったので買い揃えたのだと思う。彼のSF「ゲーム・プレイヤー」もそこそこ面白かった記憶がある。それでもなぜこのデビュー作を読まなかったのだろうか。それが気になって日曜日を潰して一気に読んでみる。

スコットランドの小島に元ヒッピーの父と二人で暮らす16歳のフランクが主人公。彼は出生届も出されず、学校にも行かず、社会的には存在しない者として育てられた。幼い頃飼い犬にペニスを食いちぎられ、理想の男性になることを諦めざるをえなかった彼は、島に住む小動物を残虐になぶり殺して日常を過ごしていた。そこにある日、将来を嘱望された医学生だったが発狂して精神病院に収容されていた兄から電話がかかってくる。「病院を抜けだした。今から帰る」と。

ニューホラーと言えばこれ以上無いホラーの雰囲気で始まる物語なのだが、動物の虐殺やら、もっと幼い頃にフランクが手を染めた三件の殺人-偶然や彼が子供であることを巧みに利用した完全犯罪-などの記述がいかにもアングロサクソンっぽい気色悪さで、読み進むのが少々苦痛に近い。表紙には「結末は誰にも話さないでください」と書いてあって、一体どんな結末なのだろうという期待だけで読んで行った。

その結果、まあ確かに驚天動地と言えば言える結末に至り、彼のやってきた残虐行為にもそれなりに説明がつく仕掛けにはなっているのである。しかし正直言って肩透かし感は否めない。リアリティの面でもかなり問題がある。わざわざ買い揃えてこれだけ読んでいなかったのは、あまりといえばあまりなこの結末を予測したからだろうか。それとも私の脳みそが拒否反応を起こし、読んではいたが読まなかったことにしてしまったのか。

もはや誰も問題にもしない小説について何を言っても仕方がないとは思うが、通俗文学の愛好者としては、自分の時間の多大な部分を浪費して読んできた行為の無意味さを思い知らされたような体験だった。これこそこの「ニューホラー」作品の狙いだったのかもしれない。



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