2013年7月24日水曜日

Good old days

私がかねてより畏敬の念とともに拝読させていただいている医師ブログ、「日日平安録」にこんな記事があった。それによれば「製薬会社が医療機関や医師に提供した費用などを公開しようと」する動きにたいして医師会がそれに反対し、本来ならこの5月に公開されるはずのものが延び延びになっているのだそうだ。 

最近ファイザーという会社が単独で公開に踏み切ったそうで、その資料では「研究開発費などが116億円、原稿執筆料などが11億円」、接待費だけでも億を超えているそうである。ファイザーといえばバイアグラで有名だが、向精神薬も結構出していて、抗うつ剤のジェイゾロフト、抗不安剤のソラナックスあたりが有名どころであろうか。

実際私のような窓際医師には、製薬会社がどんな形であれ金銭を潤沢に提供して来るようなことは考えられず、たまにボールペンかティッシュペーパーを頂く程度である。それも最近すくなくなった。もしかしたらああいうのも自主規制の対象になったのかもしれない。

 たしか一年前ぐらいに、製薬会社の販促社員が医師に飲食接待をすることも禁じられたはずである。主体は誰で、どんな権限でそうしたのか、と言うところまでは知らない。刑法に抵触するようになったわけではあるまい。多分、業界の自主規制なんだと思う。

ちょっと前までは「新製品説明会」というような名目で、何かの会食のスポンサーを申し出てくれていたのがナシになったので、私などはここ一年まえから、説明会名目で高級料亭やらレストランに行く機会は全くなくなった。どうせ接待されてもどこの製薬会社だったか、帰る頃には忘れているし、そもそも自腹でそんなところに行くこともない。 

それでもここ10数年間ぐらいの接待ルールというのは結構つましいもので、野放図にタカリのごとき接待を要求するような医師や、それは贈賄だろうというような利益提供をする製薬会社を少なくとも私の周りで見ることはなかった。そんなことを言えば昔はあったのだろうといわれるだろうが、その通りあったのである。

私らはあまり利権を生むほどの高額薬剤を大量に使うことがない診療科なので、それほどたいした誘惑もなかったが、高価な抗生物質や抗癌剤を多量に使う診療科では、製薬会社の提供する資金を上手く手に入れることが医局派閥運営に大きな影響を持っていたのである。 

私も弱小医局の経理を任されていたことがあり、研究用図書を揃えるために、あまり感心しない手法で症例報告を量産したことがある。もちろん、嘘を書くわけではなく、ハッピーケースをメインに報告するのがその手口。今のようにランダム化手順などが確立されていなかった時代だったからこそ可能なのだが、今思い出してもあまりいい記憶とは言えない。だから、いまだに「新薬XXXの有用性」というような提灯持ちが明らかな論文は全く信用しない。 

いずれにせよ、製薬会社が大学や医療機関、個別医師に提供している資金の公表は必要なことであろう。私はそれらが総額では結構な額になるとはいえ、個々の額はささやかなものであると信じたい。でも、もし呆れ果てるような多大な額であったとすれば、私の関わったような窮余の策で弱小医局の研究費として得た僅かな金銭でいまだに感じている良心の呵責を、多少でも和らげてくれるかもしれない。ちょっと都合良すぎるかな。

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